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病気のインフォーム

胆泥症、胆嚢粘液嚢腫、胆石症

●胆嚢(たんのう)とは?

 胆嚢とは、肝臓の一部にくっついて存在している緑色の水風船状の臓器です。肝臓や十二指腸、膵臓と隣接しています。本来、胆嚢には肝臓で作られた「胆汁(たんじゅう)」と呼ばれる脂肪を分解するための消化酵素や老廃物が貯留されており、その液はサラサラとした性状をしています。胆汁は肝臓で合成され、胆嚢で貯蔵されます。胆嚢の出口は十二指腸につながっており、脂を含んだ消化物が流れてくると、胆汁の分泌が促進され、脂の分解が進みやすくなります。
 では、なぜ、肝臓で合成された胆汁は、肝臓ではなくわざわざ胆嚢で貯蔵しているのでしょうか?それは、体を作る細胞の構造をみてみるとわかります。
 動物の細胞は細胞膜という「脂の膜」で覆われています。脂を分解する酵素を持ち続けるということは、つまり、自分自身を溶かしてしまう危険性を伴っているのです。肝臓には様々な働きがあり、数多くの酵素を日々合成、分泌しています。もし、胆汁が肝臓の貯められていたらどうなるでしょうか?何かの弾みに漏れ出てしまったとすると、様々な物質が細胞から漏れ出し、大変な事態を引き起こすことが容易に想像できます。その危険性を避けるため、胆汁をためるための専用の臓器が作られたと考えられています。実際、胆嚢の袋は薄いですが、触ってみると、他の臓器にはない硬さがあります。これは、胆汁で溶かされることのないように、特殊な構造をしているためです。
<<写真1>>

●胆泥症とは?

 胆汁と一緒に、体の中で生じた老廃物が腸の中に排泄され、うんちとなります。胆汁の分泌能力が低下したり、老廃物の量が多かったりすると、この汁がどんどん濃縮されていき、いわゆる「胆泥(たんでい)」となり溜まっていきます。胆泥が溜まるだけでは、消化器症状(下痢・嘔吐)などの臨床症状が出ることは稀です。しかし、細菌感染や胆泥の摩擦による物理的なダメージから、胆嚢炎を引き起こす可能性があります。胆嚢炎では腹痛や発熱、食欲不振などの症状が認められます。
<<写真2>>

●胆嚢粘液嚢腫とは?

 胆泥が時間経過とともに更に濃くなっていくと、胆嚢の辺縁部に粘液成分である「ムチン」が付着し、中央に粘度状の胆泥が集積して胆嚢粘液嚢腫という特殊な状態となります。この状態では下痢や嘔吐といった消化器症状が見られることがあります。濃くなった胆泥は刺激性が強く、胆嚢に穴が開く危険性があります。また、胆管が閉塞する可能性が高いため、破裂する前に早急な胆嚢摘出手術が必要となります。臨床症状が認めらないうちは内科療法に反応することもあります。
<<写真3>>

●胆石症とは?

 胆泥は最終的にカチカチに固まった「胆石」になってしまいます。胆石症に陥った胆嚢の壁は非常に脆く、いつ破裂してもおかしくない危機的状態です。内科的治療による良化は不可能で、手術による早急な胆嚢摘出が必要です。胆石症の症例の多くは胆嚢炎を併発しており、胆嚢が破裂した場合には炎症によるショック、腹膜炎、細菌感染などにより急激に全身状態が悪化します。代表的な症状は下痢や嘔吐といった消化器症状がメインとなりますが、胆嚢の状態によっては腹痛、黄疸症状が出る場合もあります。
<<写真4>>

●胆泥の原因は?

 胆泥症は高齢犬では決して珍しくない病気です。胆汁の主成分である胆汁酸はコレステロールやビリルビンの代謝によって作られます。また、人間の胆泥と違いカルシウム化合物も多く含まれます。高齢や甲状腺機能低下症による基礎代謝が低下、脂質代謝異常、ホルモン疾患、肝臓疾患、肥満体質などが原因で胆泥が溜まりやすくなります。

●診断方法は?

 超音波検査が有用です。解剖学的な位置の理由により、胃が影になることがあるため、検査時は絶食であることが望ましいです。また、超音波検査機器の特性上、被毛が濃いときには検査に影響が出ることがあるため、一部の毛を刈る場合もあります。胆嚢疾患では血液検査で一部の肝酵素の数値が上がりやすいですが、そうでない場合もあります。定期健康診断時の血液検査の際に、肝酵素(ALP、γGTPなど)の上昇で偶発的に見つかることが多いです。肝酵素の上昇が認められた場合には、絶食での血液再検査(一部の肝酵素は食後に軽度上昇することが知られています)、超音波検査にて胆嚢、肝臓の状態の確認を行います。また、胆管閉塞を起こしている症例では胆石が胆管の遠位部に移動していることがあり、胆管閉塞(胆石や胆泥による胆管の閉塞)が強く疑われる場合には、超音波検査だけではなく、レントゲン検査、もしくはCT検査にて胆石の場所を確認することもあります。

<<写真5>>
<<CT画像>>

●診断方法は?

 胆石になってしまう前に胆泥を溶かす内科治療が基本となります。内科治療では肝庇護(かんひご)剤や利胆(りたん)剤、排泄促進、肝機能改善薬、肝保護用サプリメント、低脂肪食の給餌を使用します。甲状腺機能低下症などの基礎疾患がある場合にはそれに準じた治療を行います。また、胆嚢が感染による胆嚢炎を起こしている場合、感染に対する治療が必要となります。食欲廃絶、嘔吐、下痢、腹痛、黄疸などの臨床症状を示している場合には外科的な胆嚢の摘出手術が第一選択となります。